投稿時代とデビュー後の打ち合わせの厳しさの違いは想像以上でしたが、タイトルのつけ方から信じられないほど厳しい指導を受けました。タイトルを考えるのが苦痛になるほどでした。
まずタイトル20本出しをやらされました。その中から担当が選んで決めたタイトルが、大御所のタイトルとかぶるから変えろと言われ、また20本出しをさせられました。タイトルで1日以上かかってしまいました。プロの漫画家が締め切りを破る、という話をよく聞くのは、プロット、ネームの段階でなかなかOKが出ず、スケジュールが押して、予定していたアシスタントにも来てもらえなくなり、人数不足で徹夜しても間に合わなくなるからです。誰も破りたくて破るわけではありません。その上タイトルも決まらないと地獄です。編集者の提案するタイトルがどうしても自分の気に入らず、投げたくなることもありました。
タイトルだけで人が見るか見ないか決まる、アンケートの数字が違う、売れ方が違うのは事実です。それを徹底して教えられました。比較的読者年齢が低いほど厳しかったように思います。読者が大人ならまだ地味なタイトルでも通好みで読んでもらえますが、タイトルしだいで差がつくことを意識しないわけにいけません。甘い雑誌もありますが甘えられません。デザイナーに「私には権限がないが、この雑誌はタイトルのつけ方が甘い」と忠告されたこともありました。
タイトルで売れた好例は「世界の中心で、愛をさけぶ」でしょう。元は「恋するソクラテス」でしたが、編集者の判断で変更して当たりました。政治好きには「日本改造計画」がわかりやすい例でしょう。当初の案は「夜明け」でした。編集者の考えで、結局「日本列島改造論」を思い出させるタイトルに変えて売れました。「夜明け」ではどうだったでしょうか?
ネットでは誰でも習作を投稿して公開することができます。そこで気になるのは「無題」が多いことです。本当に習作ならそれでもかまいません。しかし真剣に集客を意識しているなら無題はありえません。シェアボタンでSNSに紹介したくても「無題」では困ります。惹きつけるタイトルを考え、反応を見て変えていく努力も必要です。「漫画けもの道」もタイトルをいくつも考えて決めました(汗)。