ネットで個人で漫画を公開するのは自由ですが、大手出版社で仕事をするなら、まず担当編集者のOKをもらい、打合せしてネーム(台詞、モノローグ)を作り、編集者が会議で通して初めて雑誌に掲載されます。競争率は高く熾烈な戦いです。会議で勝てるかどうかは編集者の力にもよります。強い編集者が担当になると仕事が続き、その人と離れたとたん仕事が切れることもあります。強い編集者は頼もしい味方です。
新人には担当編集者を選ぶ権利はありません。そして決まってから簡単に替えることもできません。編集者にも個性があり、かなり柔軟な人もいれば、自分の考えに固執する人もいます。たまたま私が知っているある編集者は、ガチ保守でした。女の幸せは結婚だ、結婚しても仕事をしたがる女は嫌いだ、と打ち合わせで言うのには驚きました。既婚の漫画家はやりにくいことでしょう。反対に、女は自立すべきだ、専業主婦の漫画なんか描くなと言う自称フェミニストもいました。どちらもある程度実績があり、発言力もあります。その担当する漫画家にもどちらかの色が出てきます。そうでなければ打ち合わせで企画が通らないからです。味方でもある強い編集者がガチ保守で、結婚至上主義の漫画を描けと言われて、それを巧みに生かして編集者の考え以上の仕事にできる人もいれば、我慢できずにその会社から離れる人もいました。その反対に、既婚で出産後専業主婦になり復帰した漫画家が、フェミニストの編集者を、主婦をバカにするからから嫌いだと敬遠していたこともあります。
特に発言力も実績も全くない新人は、担当が強い時には助けられもしますが苦労もします。思想信条が違うと正面からぶつかることもあります。しかし共通の趣味嗜好はありますから、酒好きなら酒、旅好きなら旅と、接点を見つけて企画を立てることもできます。打ち合わせをすれば案外気が合うかもしれません。また漫画というのは、漫画家独特の絵、トーンワーク、衣装、語彙、小道具の趣味、など表現全体が魅力で、ファンがつきます。そこは自分らしさを大切にして、異質の編集者と新しいことをやってみるのも悪くありません。 私がうまくやれたとは言いかねますが、これからの人は覚悟して、うまくやってほしいと思います。